絵板絵描きがふと思う。「あのとき、自分は何に関心を持っていたのだろうか」そんなときのためのメモ。
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100の10-「指先」
『友』
 ノブの同級生、七王麗は別名アイスと呼ばれていたんだ。金融業者という意味じゃない。考えてもみろ、中学という年頃は安易な命名が大好きなんだ。幼稚なぐらい単純なのが。国語教科書の教養ギャグなんか使うはずない。
 彼女は指先が氷のように冷たかった。末端なんとか症だった。夏以外は常に手袋をし、手袋を外す時は終始自分の吐息ではーはー指を温めてた。一本一本口づけするかのようなその仕草がアイスを舐めているように見えたらしい。まさに色気だったね、まさにエロスだった。まあそれはともかく、アイスって言い出したのは女子だったな。給食に雪印のカップアイスが出た日だったように記憶してる。麗は同年代の中では大人っぽい部類に入ったから、間違っても「人前でアイスクリーム」の可愛いイメージは当てはまらない。なのに。つまり、女子ならではの陰湿な揶揄だったんだろうね。男子はそんな裏事情に興味はなかったけど、女子の麗に対するイメージは、大抵その延長線を脱しない。つまり「気に食わなかった」わけだ。
 男子は男子で麗の指に対するその徹底ぶりに、同年代が滅多に持ち合わせていないある種の本気さを感じ取り、彼女には一目置いていた。それに加え、いや本当はそれこそが第一だったのかもしれないけど、つまり麗は夏はポケットに手を突っ込みっぱなしで生活し、他の季節は都会風の手袋をしっかり両手に装着してた。学校公認。女子がポケットに両手を突っ込んで歩く姿は、男子には実に颯爽として見えたし、装に目覚め始めた年頃としては、その手袋の存在が特別なものに見えていたんだ。しかも学校公認。麗はそれを簡単に採り付けられる、お嬢様でもあったんだ。もちろん手袋は保健上のことだったけど、立場は常に予想を纏う。
 あるとき男子の人気投票で、麗が第一位となった。冷血人間、雪女――そうした陰口がクラスモラルの防波堤、陰口者の背中を塊となって越えはじめた。
 純情な男子は諸々そうした中傷に憤慨した。特にノブはそうした勢力を一人で体現していたといってもいい迫力だった。小学の頃から人を貶めるような噂や中傷は虫唾がはしると言っていたよな。柔道やら空手やら喧嘩の腕を生かして不良狩りに励んでいた当時、だからノブと麗が付き合いだしたのを、王子と姫に例えた例は数知れない。だが実際はまったく違った。どっちも白馬に乗ってなかった。どっちもドレスを着ていなかった。二人は文字通りの対等関係。ノブと麗は戦友だった。

 そこまで一気に話すと僕は、反応を伺う間を取った。
「戦争が、あったのか」ノブは言いたいことを沢山呑み込んだような顔をした後、真っ青になって、驚愕に震える瞳を上げた。
「いや、ないよ」僕はがっくりと肩を落として、それだけでは今感じている脱力感と落胆を表現するには不足だと考え、わざとらしく見えるよう全上半身でため息をついた。「比喩だよ……。彼女もいわれなき中傷と暴力が好きじゃなかった。裏路地で恐喝中の不良君にノブが制裁をかまそうと駆け寄った瞬間、強烈な槍蹴りでその手柄を横取りしたのが彼女ってわけさ。二人は志を同じくする者同士、成敗という手段を同じくする者同士、つまり戦友」
 ノブはその説明に関しては何も言わず、しばらくじっと手元の辺りを見てうた。
「続きを話してくれよ」
 やはりまたあの場面まで僕は語らなければならないのだろうか。
「その(ななぎみうらら)と俺はどうなったんだよ」
 ――自分でも覚えてないものをなんでお前が覚えてるんだよ。
 僕にはそう聞こえた。
「……なんかやだよ。僕もう泣けてきたよ」

| hirosakisinji (sin) | 100のお題 | 02:21 | comments(0) | trackbacks(0) |
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