「グオオオオオオオオォォォォォッ!」
それは吠えた。
「おい。このアンパン、中から吠え声が聞こえるんだが……」
「気にすんな♪」
続々と手製のパンを釜から出しながら、上機嫌な妹はのたまった。
憤慨に瞼が全開だった一時前の痛々しさは欠片もない。妙に晴れやかな笑顔だった。ばちんとウインクすればそこからハート絵が煌きながら飛び出そうなほどの、胡散臭い明るさだった。
「グオオオオオオオオォォォォォッ!」
そんな妹にひやひやしている合間にも、聴覚から締め出したい咆哮が手に持ったアンパンの内部から聞こえてくる。表面にくっついた白胡麻がぶるぶるぶるぶると振動していた。
「さあ、喰えよ♪」
「グオオオオオオオオォォォォォッ!」
「あの……」
「早く、喰えよ♪」
「……はい」
歯ざわりは思ったよりも軽かった。
咆哮は一瞬止まって、必死さを増して再開したが、こちらも必死だった。
ゲームの勝者たらんとするのは当然だ。だがいつまでも王たらんとしたのは間違っていた――そんな意味不明な名言めいた言葉が口をついた瞬間、視界がぐるっとまわった。
目が覚めるとどこかに閉じ込められているようだった。
「へー、うまそうだな」
そんな声が外から聞こえた。
了