絵板絵描きがふと思う。「あのとき、自分は何に関心を持っていたのだろうか」そんなときのためのメモ。
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100の16−「砂」
『プライベート20セカンズ』
 アンドロイドも不安や緊張、それに恐怖を感じるという。
 ストレスの蓄積を計測するための擬似感情だと広報の舛田は説明した。
「疲労度は数値で計るより、感情として表現させた方が正確なのですよ。事実、導入後の2クール以来、故障率の引き下げにつながっているのです」
 和志たちは、とりあえず手帳に記入した。舛田は相手が子供だからといって喋りなれた説明の難度を下げるつもりは無いらしく、彼らには正直なところさっぱり理解ができなかった。だが皆一様に興奮していることはその筆圧の強さから察することができる。
 少年たちには旺盛な好奇心があった。小さな町に住んでいる反動か、ほとんど飢えたメモリーチップのように世界を知りたいと願っていた。いつも方法については議論しあってきた。そして毎回到達する結論は、結局そのためにはまず自分達の地域社会を知らなければならない、ということだった。
 そしてそれはつまり、この町のほぼ全てである第十三工場、通称「長州の追い込み工場」について知らなければならない、ということだ。だからこの社会科見学を、彼らは大人が想像する以上に楽しみにしていたのだ。
 工場は町の中央道路を組み込むかたちで建設された。とはいえ、その中央道路も工場建設にともなって新しく敷き直したのだから実質的には道路も工場の一部といえる。町の中心地をほぼ占める工場帯は、さながらこの町に着陸した巨大な宇宙船を思わせる。
 簡単なレクチャーを通じてわかったことは、実際に工場へ送られてくる製品を組み立てているのはアンドロイドであり、人間の労働者はそのアンドロイドの監視を行っているということだった。町のほとんどの大人たちはアンドロイドの監視をして家族を養っているのだ。そのことは少なからず少年達を動揺させた。
「最良が必ずしも最善じゃない、という典型なわけです。隙間を埋めるように働く数値での判定は潜在的にオーバーワークを含むので、故障を増やし、最終的な総合力低下を招く恐れが出て来るのです。ですから感情によるストレス判定を導入し、それによってアンドロイドが自ら休息をとる判断を下す方式を採用したのです」
 休息時間はどのくらいかと訊くと、20セカンズ、と舛田は笑顔で即答した。悪意は無いのだろうが、どうもこの大人は親切ではないと和志は思った。
 最後に舛田に率いられて少年たちは工場内部を見学した。漠然とだが人と同じ様にアンドロイドが働いているだけ、というイメージだったが、それはまったく想像力の足りない思い込みだということを少年たちは思い知らされることとなった。
「うわっ、なにこれ」一人が呻くように呟く。それは少年全員の代弁だった。
 想像に反して製造ラインは人間を考慮したデザインになっていなかった。人が働ける環境やスペースはそこにはなかった。「ここでは人間は働かないのだ」という強い意見表明のようなものと、「ここではアンドロイドが働くのだ」という強い意志表示のようなものが交じり合って、魔界のような光景を作り上げていた。
 一体のアンドロイドが人ではありえない方向に突然間接を曲げ、まるでパズルの1ピースのように製造ラインに文字通りはまり込んだ。やがて細かな金属音と風の音が塊から聞こえてきた。
 少年たちはしばらく動けずにいた。舛田がまた新しい説明を朗々と語り始めたが、誰も書き留める者はいなかった。
 最後に少年たちはアンドロイドに直接インタビューをする機会を与えられた。工程現場から一歩離れた空間の、アンドロイドが20ゼカンズの休息をとるベンチの一番端に腰掛けていた一体に、舛田はインタビューに答えるように命令した。
 ショックがようやく抜けてきた和志が、なるべく製造ラインを見ないようにしながら暫く考えた末、こう訊いた。
「二十秒の休憩の時、どんなことを考えてるんでしょうか」
「なにも」
「じゃあ、アンドロイドにとっての休息ってどのようなものなんですか」
 アンドロイドはしばし言葉を探しているようだったが、一言一言区切るように次のように答えた。
「わたしたちは働いていくうちに頭の中に街を造っていくのです。やがてその街は地域となり、国となり、世界となります。世界が完成する頃になるとわたしたちは自分の能力の効率が低下しだすのを感じます。そして休息をとろうと思い立つのです。休息という時間を取るとまず始まるのが頭の中の世界の崩壊です。世界が砕けて砂のようになっていくのです。そして次の瞬間に現れる深い穴、そう深い穴に吸い込まれて消えてしまうのです。そしてまたクリーンな状態となり、わたしたちはまた最高のパフォーマンスで働けるようになるのです」
 子供たちはやや圧倒されたようにアンドロイドを見上げていた。アンドロイドがこんなにも話すことができるとは、思いも寄らなかったからだ。
「深い穴とはなんのことだい」
 そう訊いたのは舛田。どこか訝しげな表情だった。アンドロイドが言葉を強調するかのように繰返すのを聞いたことがなかったからだ。
「おそらく」とアンドロイドは舛田の目を見てゆっくりと答えた。「おそらく、おそらくその穴は、意識の根源へと続く入り口、なのだと思います。その穴をコントロールすることができれば、おそらく、わたしたちアンドロイドは人間のようになれるのだと、そのように思います」
 舛田とアンドロイドはお互いの目から視線を離さなかった。その様子を少年たちは肘で突付き合いながら困惑した顔で観察していた。二人の間には見えない火花が散っているような気がした。何故だか緊迫感のようなものが漂い始めたのを少年たちは敏感に感じていた。そして、辺りを見回してそれぞれ恐怖に凍りついた。何体かのアンドロイドが、作業を中断して塊から分離し、続々と少年たちの方へ歩いてくる。

【了】

(蛇足)


「うわあああああああああああああああああああああああ!」
 少年の一人がその恐怖に耐え切れず、バックの中から拳銃を取り出して乱射しはじめた。アンドロイドの頭がグミのように割れる。二三体続けてばたりばたりと倒れる。製造ラインの塊にも三発かの銃弾がめりこんだ。
「な、なんてことを!」
 舛田が絶叫しながら拳銃を奪い取ったが、すでに何もかも手遅れだった。すでにドミノの最初の一枚は倒されてしまった。
 ぶるぶるぶるぶるとアンドロイドで出来た異形の塊が震えだした。その振動はやがて工場全体に拡がっていく。薄い金属がねじ切れるような甲高い音、硬く重いものが横倒しになる音、人間の叫び声、それらが混ざり合った大音響が工場の上下と共に強弱の波を作った。ガラスが割れ落ちる激しい音色を聞いて顔を上げた和志は、アンドロイドで出来たブロックの塊が膨張していく光景を目の当たりにした。それは脈打ち、人の言葉で絶叫していた。怖気が奔るほど、全ての口が高速で何かを繰り返し叫んでいた。。それはセミの喚きに似ていたと思う。
 少年たちは、その悪魔的な大合唱を聞いて一瞬で命をかき消された。舛田は激しく嘔吐して、身をかがめたところをアンドロイドに後頭部から踏み潰された。噴き飛び散った血液が笊のような波形を波打たせる。
 強烈すぎる音波の炸裂だった。機器は使用不能なほどばらばらに崩壊し、工場内にいた全ての人間が内部から人体を破壊され、工場そのものがアンプ化される事態に発展してから、工場外の人間が耳をふさぎながら次々に絶命していった。そして町は壊滅し、周囲の地域も壊滅し、国が崩壊し、世界が砕け散った。

 数億年後、かつて恒星だった超重力惑星が小さな小さなブラックホールとなった。そして、かつて人間の世界であり、人を擁する国であり、地域であり、町であった星の屑を、音も無くゆっくりと飲み込んでいく。

【了】
| hirosakisinji (sin) | 100のお題 | 07:25 | comments(0) | trackbacks(0) |
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